法律相談では、相談の内容そのものよりも前に、
話の前提がすでに置かれていることがあります。
その前提とは、
選択肢が二つしかないと思っている状況です。
どちらを選ぶかはこれから考えるとしても、
他の可能性については、
最初から話題に上らないまま進んでいく。
そうした相談の始まり方を目にすることがあります。
この記事では、
選択肢が二つに整理された状態で考え続けると、
判断がどのような形を取りやすくなるのか、
相談の現場で見てきた様子をもとに整理してみます。
選択肢が最初から二つに絞られている相談
相談の冒頭から、
選択肢が二つに整理された形で話が始まることがあります。
「このまま我慢するか、訴えるか、どちらかですよね」
「動くしかないか、何もしないかだと思っていて」
といった言葉が、自然に置かれることもあります。
そこでは、
選択肢をこれから並べていくというよりも、
すでに二つに整理された前提を確認する形で、
話が進んでいきます。
「他に考え方はありますか」と尋ねても、
「それ以外は思いつかなくて」
「現実的には、その二つしかないと思います」
と返ってくることがあります。
この段階では、
その二つが本当に残った結果なのか、
あるいは、他の可能性が検討されないまま消えていったのかは、
まだ分かりません。
ただ、話はすでに、
二択という枠組みの中で進み始めています。
こうした相談の始まり方は、
判断の内容というよりも、
考えているときの状態が強く影響していることがあります。
その点については、
別の記事で触れました。
二択になると、省かれるもの
選択肢が二つに見えているとき、
その二つが慎重に選び取られた結果であるとは限りません。
多くの場合、
それ以外の可能性が、
検討されないまま省かれています。
まず省かれやすいのは、時間です。
少し様子を見る、条件が変わるのを待つ、
といった発想が出てこなくなります。
「今決めなければならない」という前提が、
自然に置かれていきます。
次に省かれるのは、条件です。
この前提が崩れたらどうなるか、
状況が少し変わったら選択肢は変わるのか。
そうした検討が後回しになります。
中間的な対応も、同じように消えていきます。
一部だけ対応する、段階を分ける、
切り分けて考える。
そうした可能性は、
「どちらかを選ぶ」という枠組みの中では、
最初から考えにくくなります。
「そこまで考えている余裕はない」
「細かい話は後でいい」
こうした言葉が出てくるとき、
選択肢が二つに見えているというよりも、
それ以外が視界から外れている状態に近いことがあります。
二択の判断が、考えを固定する
選択肢が二つに整理されると、
判断は一気に進みやすくなります。
ただ、その進みやすさと引き換えに、
考えの向きが固定されていくことがあります。
「何もできない、何もしないということは、
泣き寝入りするってことですよね」
この言葉が示しているのは、
二つの選択肢のうち、
一方がすでに否定的な意味を持たされている状態です。
「何もしない」という選択肢は、
検討の対象というより、
避けるべきものとして扱われています。
こうして二択の一方に価値判断が乗ると、
もう一方を選ぶことは、
選択というより回避に近いものになります。
負けたくない、納得できないという気持ちが、
判断を後押しする形になります。
その結果、相談の場は、
選択肢を並べて比べる場というよりも、
すでに傾いた判断を確認する場に変わっていきます。
都合のよい情報は拾われやすくなり、
違和感のある話は、
脇に置かれがちになります。
その状態のまま判断を進めると、
後から立ち止まる余地は、
思っている以上に小さくなります。
二択のまま進んだ結果
選択肢が二つに整理された状態のまま判断が進むと、
いくつかの帰結が見えてくることがあります。
手続に入ってから、
「主張したいことと手続が合っていない」
「思っていたより時間がかかる」
「想像していた展開と違う」
と感じる場面が出てくることがあります。
その時点で、
初めて別の考え方が頭に浮かぶこともあります。
ただ、その頃には、
「ここまで来たのだから、もう引けない」
「今さら別の選択肢を考えても意味がない」
という感覚が強くなっていることがあります。
二択で考えていたはずなのに、
実際には、手続が進むにつれて
選べる余地はさらに狭くなっていく。
そう感じられる場面も少なくありません。
振り返ってみると、
最初に二択として見えていたものは、
選択肢が整理された結果というよりも、
他の可能性が視界から外れた状態だったのかもしれません。
それでも、二択で考えてしまう理由
それでも人は、
選択肢を二つに整理して考えてしまうことがあります。
考え続けること自体が負担になっているとき、
早く決めてしまいたいという気持ちは、
自然に生まれます。
判断を先延ばしにする余裕がないと、
感じていることもあります。
「もう考えるのに疲れました」
「決めないと前に進めない気がして」
そうした言葉が出てくることもあります。
二択で考えることは、
状況を単純化し、
一時的に気持ちを整理する手段として
機能していることもあります。
その意味で、
二択になっていること自体を
誤りとして捉える必要はありません。
判断の前に、選択肢の数を数えてみる
ただ、
判断を進める前に立ち止まって、
今、頭に浮かんでいる選択肢が
いくつあるのかを数えてみることには、
意味があるかもしれません。
それは、
選択肢を増やすためでも、
正解を探すためでもありません。
二つしか浮かんでいないとき、
それが本当に残った結果なのか、
そう感じているだけなのかを、
一度切り分けて考えてみる。
選択肢が二つに見えていること自体が、
今の状態や、
考え方の枠組みを映していることがあります。
判断を急がず、
まず、その枠組みを言葉にしてみる。
その過程が、
次に何を考えるかを決める前提になることもあります。