9月29日の記事ですが、ネット上の誹謗中傷をめぐり、法務省が民法の不法行為に関する規定を見直す研究会を設け、慰謝料の算定基準を明確にすることを目指すと報じられました。誹謗中傷問題の被害者への賠償がどう変わるのか、気になるニュースです。
ただ、被害者にとって切実なのは、慰謝料の額だけではありません。匿名の投稿者を特定するために弁護士へ依頼し、費用を支払っても、その全額が相手への損害賠償請求で認められるとは限らないからです。
今回の見直しは、こうした「費用倒れ」の問題にどこまで届くのでしょうか。法務省の第1回研究会資料を読むと、慰謝料だけでなく、開示にかかった費用の回復も検討する論点に挙がっています。もっとも、増額や費用の全額回復が決まったわけではありません。何が検討され、何がまだ決まっていないのかを分けて見てみます。
「基準を明確にする」と「慰謝料が上がる」は別の話です
第1回研究会資料では、慰謝料の額を決めるときに考慮する要素を、法律に明記するかどうかなどが論点として示されています。
ここで注意したいのは、「どのような事情を考慮するか」を明らかにすることと、「慰謝料を一律に増やすこと」は同じではない、という点です。基準明確化という言葉だけで、今後は賠償額が上がる、被害者の出費を埋められる、と受け取ることはできません。
研究会は、制度の見直しに向けて基本的な論点を整理する段階です。確認した資料からは、具体的な基準や法改正の内容が決まったとはいえません。「慰謝料が低い」という問題への関心と、すでに制度変更が決定したかどうかは、分けて考える必要があります。
開示費用についても、検討する論点に入っています
慰謝料は、精神的な損害に対する賠償です。一方、発信者情報開示のために支払った弁護士費用などは、投稿者を特定する過程で生じた支出です。被害者から見ればどちらも救済に関わるお金ですが、同じものではありません。
匿名投稿では、損害賠償を請求する相手を特定するため、先に開示手続が必要になることがあります。そこで費用を負担する被害者にとっては、慰謝料がいくらになるかだけでなく、開示に使ったお金が損害としてどこまで認められるかも重要です。
研究会の第1回資料は、この問題にも触れています。発信者情報開示手続の弁護士費用など、加害者を特定するための調査費用についても、その回復に関するルールを検討することが考えられるとしています。
その背景にあるのは、被害者が費用負担を理由に訴えを諦めることのないよう、こうした損害も適切に回復される必要がある、という考え方です。今回の検討を「慰謝料だけの話」と捉えると、この点を見落としてしまいます。
支払った開示費用が、そのまま全額認められるとは限りません
では、現在は開示費用がどのように扱われているのでしょうか。法務省の調査報告書には、開示請求などの費用を全額認めた裁判例も、一部だけ認めた裁判例も、認めなかった裁判例も整理されています。
例えば、開示の対象に、損害賠償請求とは関係のない投稿も含まれていた場合があります。実際に費用を支払ったことの証拠や、どの手続に必要だった費用なのかが問題になった例もあります。支出したという事実だけでなく、その投稿による損害としてどこまで認められるかが検討されているのです。
また、開示費用を独立した損害の項目として扱う例だけでなく、弁護士費用の認定額の中で考慮する例もあります。慰謝料とは別の問題だからといって、必ず別枠で全額が上乗せされるわけではありません。
この調査は、一定の判例データベースから抽出した裁判例を対象にしています。その結果を、すべての事件の傾向や回収の見込みに置き換えることはできません。ただ、被害者が支払った額と、相手の負担として認められる額が一致しない場合があることは確認できます。
費用倒れへの効果は、具体的なルールを見なければ分かりません
今回の資料から分かるのは、慰謝料の算定と、開示費用などの回復の両方が、検討する論点に挙がっていることです。これは、被害者の費用負担を考えるうえでも注目できる点です。
一方で、どの費用を、どのような条件で損害として認めるのかは、具体的なルールを見なければ分かりません。費用の全額回復を保障する制度が決まった、とはいえない段階です。
「慰謝料はいくらになるのか」と「救済のために使った費用はどこまで認められるのか」。被害者の費用倒れを考えるには、この二つを一緒に見る必要があります。今回の見直しについても、慰謝料の基準だけでなく、費用の回復がどのように扱われるのかを確認していきたいところです。
この記事を考えるきっかけになったニュース
- 記事:誹謗中傷、慰謝料の基準明確化へ 民法初の大幅見直し、法務省(共同通信)
- 媒体:47NEWS(共同通信)
- 公開日:2026-09-29
- URL:https://www.47news.jp/15008346.html