GMOのサービスへの不正アクセスをめぐるニュースでは、お見舞金や損失の補償も取り上げられました。個人情報が漏れた側からすれば、「数千円では安い」と感じることもあるでしょう。一方で、実際にお金を失ったわけではなく、悪用されるかもしれないという不安がある段階では、何を損害と考えるのか、つかみにくい面もあります。
ただ、知られたくない私生活の情報を公開された場合も、単に「不安なだけ」で済むのでしょうか。お見舞金の額を考えるには、金銭的な損失と、情報を知られること自体による被害を分けて見る必要があります。
GMOの5,000円と「上限300万円」は、何のお金か
まず、金額の意味を確認します。GMOインターネットの10月24日付の発表では、「お名前.comデスクトップクラウド」を同発表時点で利用しているすべての顧客に、金銭的被害の有無を問わず、一律5,000円のお見舞金を支払うとしています。実際の損失を5,000円で補う、という制度ではありません。
不正アクセスに起因すると同社が認めた不正取引の実現損失については、これとは別に補償する方針です。取引記録やアクセス記録などで確認する仕組みで、5,000円がお金の被害すべての上限になるわけではありません。GMO第4報
さらに10月27日には、本人の情報が公開されたと同社が確認した場合の特別お見舞金も発表しました。基本的な氏名・連絡先は1万円、金融・認証に関する情報は1万5,000円、プライバシー性の高い情報は2万5,000円とし、複数区分は合算する内容です。この特別お見舞金も、一律5,000円のお見舞金や不正取引による損失の補償とは別に支払われます。
「1公開につき上限300万円」という表記もあります。ただし、具体的に示されているのは情報区分ごとの金額であり、「1公開」の数え方や上限300万円に至る条件は、発表文だけでは明確ではありません。少なくとも、公開された人に一律300万円を支払うという意味ではなく、裁判所が認めた慰謝料額でもありません。GMO第12報
お見舞金と、裁判で求める損害賠償は分けて見る
タイムズカーでも、パーク24は10月23日、暗号化された本人確認書類画像へのアクセス・外部送信の痕跡が確認された顧客に、3,000円相当の現金または金券を渡す方針を公表しました。同社は、外部送信の痕跡があることが、直ちに画像を閲覧できる状態になったことを意味するわけではないとも説明しています。パーク24の発表
これに対し、集団訴訟を準備する法律事務所は、10月26日に提訴する方針を表明し、本人確認書類の画像が漏えいした人には約5万円、それ以外の人には約3万円を請求する予定としています。こちらは被害者側の予定請求額であり、裁判所が認めた額ではありません。訴訟準備の案内
企業が示したお見舞金、被害者が請求する金額、裁判所が認める賠償額は、それぞれ意味が違います。企業が数千円と発表したことだけで、一人ひとりの損害がその額に確定するわけではないのです。
なお、お見舞金を受け取ったことだけで、当然に追加の損害賠償請求ができなくなるとは限りません。ただし、受領に当たって示された条件や合意内容によっては影響することもあるため、個別の確認が必要です。
「お金を失っていない」ことと「被害がない」ことは違う
ここで考えたいのが、情報を知られること自体による被害です。例えば、顔写真や家族構成、私生活の事情が本人の望まない形で広く公開されたとします。これは今回の事件の個々の流出内容を認定するものではありませんが、その立場を想像すると、「まだ詐欺に遭っていないから、被害はない」とは言い切れないのではないでしょうか。
最高裁平成29年10月23日判決は、氏名や住所などが漏えいした事案で、プライバシーの侵害を認めました。そして、不快感や不安を超える損害の主張・立証がないことだけを理由に、精神的損害の有無や程度を十分に審理せず請求を退けた判断を、誤りとしました。
ただし、最高裁が直ちに慰謝料の支払いを命じたわけではありません。事業者の過失や精神的損害の有無・程度などをさらに審理するため、事件を差し戻しています。最高裁判決
その後、差戻審の大阪高裁令和元年11月20日判決では、事業者の損害賠償責任が認められ、慰謝料は1人当たり1,000円とされました。プライバシー侵害が認められても、必ずしも高額な慰謝料になるわけではないことが分かります。
つまり、金銭的な二次被害が確認できなくても、漏えい自体のプライバシー侵害による精神的損害を検討する必要がある場合があります。「いつか悪用されるかもしれない」という将来への不安だけでなく、本人の望まない形で情報が第三者に取得されたり、公開されたりすること自体が問題になるからです。
政府のハンドブックも、裁判例を踏まえ、漏れた情報の内容や漏えいのされ方によって損害額が変わると整理しています。情報を入手した人の多さ、ウェブ上での拡散、二次被害なども考慮する視点です。単に「個人情報が漏れた」と一括りにせず、何が、どこまで知られたのかを見る必要があります。政府ハンドブック
数千円で十分かは、個別の被害を見なければ答えられない
情報が公開されてつらい思いをした人に、相応の救済が必要ではないかという感覚は、大切にしたいと思います。ただ、どの事件でも高額な賠償が認められるわけではなく、漏えいした内容や広がり方、精神的な苦痛、金銭的な損失を具体的に見ていく必要があります。事業者に賠償責任があるかどうかも、別途検討する問題です。
実際にお金を失った場合には、その損失と漏えいとの関係が問題になります。一方、金銭被害がなくても、私生活を公開された被害まで消えるわけではありません。両者を混同しないことが、救済を考える出発点になります。
「数千円では安い」という違和感を、単なる感情として片付ける必要はありません。しかし、企業の提示額や他の人の請求額だけで、自分の損害額を決めることもできません。何を失い、何を知られ、どのような負担を受けたのか。金額の前にその中身を捉えることが、一律のお見舞金では見えにくい被害を考えることにつながります。
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- 公開日:2026-10-28T20:06:18+09:00
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