法律相談では、「違法かどうか」「勝てるかどうか」を尋ねられる場面が多くあります。
けれど、相談の現場では、言葉や話し方から、
その人がどのような状態で考えているかが伝わってくることがあり、
考えをどう整理していくかに影響することがあります。
特に気になるのは、「今すぐ何とかしたい」という感覚が前面に出ているケースです。
切迫した状況に置かれれば、そう感じるのは自然なことでもあります。
ただ、その状態にあるとき、判断に至る進み方や、情報の集まり方が、
普段とは少し違った形になることがあります。
この記事では、「今すぐ何とかしたい」という気持ちが前面に出ると、
判断するにあたってどのような影響があるのかを、
実際の相談現場で見てきた様子をもとに整理してみます。
お問い合わせの最初に出てきがちな言葉
「今すぐ何とかしたい」とき、お問い合わせの最初の言葉に表れることがあります。
件名が「至急」「本日中にご連絡ください」だけで終わっているメール。
あるいは、件名は短いのに、本文は長く、
感情的な言葉が先に並んでいる文章。
本文の冒頭に、
「詳しく書く余裕がありませんが」と書かれていることもあります。
そして、事実関係の説明より前に、
「違法ですよね」「これはアウトですか」
といった一文が置かれていることもあります。
こうした文章では、出来事の順番が整理されていないことも多く、
昨日の話と数年前の話が同じ段落に並んでいたり、
評価と事実が混ざったまま書かれていたりします。
それ自体が問題というわけではありません。
法律の専門家でもないのに、いきなり自分の置かれた状況を理路整然と説明できる方が珍しいです。
ただ、「何が起きたか」よりも、
早く結論にたどり着きたいという気持ちが、前に出ているように感じられることがあります。
電話口で感じる「急ぎ」のトーン
電話での相談でも、「今すぐ何とかしたい」という感覚は、
声の調子や話し方に表れます。
最初から早口で、息継ぎがほとんどなく、
こちらが質問を差し込む前に次の話題へ進んでいく。
はい、いいえで答えられるように質問しても、はい、いいえで答える前に、
理由や背景の説明が続くこともあります。
「細かい話はいいので、結論だけ教えてほしい」
「時間がないので、ざっくりで大丈夫です」
というような要望がうかがえることもあります。
結論を出すには、詳細な事情を確認したり、証拠関係を整理したりする必要があり、
「それはまだ分かりません」
「現時点では判断できません」と伝えることがありますが、
それに対して少し間が空くことがあります。
その間があること自体が、「今すぐ何とかしたい」のに、
結論を教えてくれないことへの戸惑いや不満の表れとして感じる場面があります。
「今すぐ何とかしたい」という状態が、
強く前に出ていることがうかがえる場面であり、
「今すぐ何とかしたい」状態をよく表しているように感じられます。
「今すぐ何とかしたい」が前面に出ると何が省略されるか
この状態にあるとき、省略されやすいのは、
法律の話そのものではありません。
省略されがちなのは、出来事と出来事の順番(時系列)です。
いつ、何が起きて、どこで状況が変わったのか。
その整理が後回しになります。
また、相手の立場や視点について考える余地が、
少なくなりがちです。
相手がどう考えているかよりも、
自分の望む結論である「どうあるべきか」が先に出てきます。
選択肢も、自然と二択に近づいていきます。
やるか、やらないか。
強く出るか、何もしないか。
「細かい経緯は重要じゃないと思うんですが」
「そこは後でいいですよね」
そうした言葉が出てくるとき、
判断の前提となる部分が、少しずつ削られていきます。
弁護士から見て「鈍った判断」の特徴
相談を受けていて、
判断が鈍っていると感じる場面には、
いくつか共通点があります。
結論が先に決まっていて、
それに合う理由を集めようとしている状態。
不利になりそうな情報が、
話の途中で消え、耳に入っていかない状態。
また、「どう考えるか」ではなく、
「今すぐどう言えばいいか」
「一番強い手段は何か」
といった点に意識が集中していることもあります。
相談そのものが、
選択肢を整理する場というより、
背中を押してもらう場に近づいていることもあります。
「今すぐ何とかしたい」の結果
この状態のまま、次の行動に進むと、
いくつかの帰結が生じることがあります。
見通しの整理が十分でないまま、
訴訟提起を急ぐケースもあります。
主要な争点が定まらないまま手続が進み、
想定していなかった反論が出てきてから、
事実関係の整理に戻ることになります。
手続が進んだ後で、
「実はここが一番の問題だったのではないか」
という話に戻ることもあります。
当初の期待と、現実の進行との間にズレが生じ、
そのズレに精神的に追い込まれていく場面もあります。
「ここまで来たから、もう引けない」
「今さらやめるわけにはいかない」
そう感じられるようになると、
選択肢はさらに狭く見えていきます。
それでも、人は「今すぐ何とかしたい」と思う
こうした状態に至る背景には、
理由があります。
眠れていない。
周囲に相談できていない。
すでに何かを失っている。
「これ以上は耐えられない」
「自分でも冷静じゃないのは分かってます」
そう口にされる方もいます。
「今すぐ何とかしたい」と思うこと自体が、
間違いだとは言えません。
それは、その人が置かれている状況を、
そのまま表していることもあります。
それでも「今すぐ何とかしたい」と感じるとき
ここまで整理しても、
「とにかく今の状況を変えたい」
「このままではいられない」
という感覚が消えないことはあります。
「今すぐ何とかしたい」と思うこと自体は、
不自然なことではありません。
追い込まれた状況に置かれれば、
そう感じるのは、ごく自然な反応でもあります。
ただ、その感覚が強くなっているとき、
判断は、選択肢を比べる作業というより、
早く結論にたどり着くための作業に変わりがちです。
何を選ぶかの前に、
いま自分はどのような状態で考えているのか。
その確認は、結論を出すこととは別の段階にあります。
「今すぐ何とかしたい」という感覚は、
行動を促すきっかけにはなります。
けれど、それだけで判断を進めてしまうと、
後から立ち止まる余地が、
思っている以上に小さくなることがあります。
判断を急がず、
まず、事実として目の前で起きていることを
言葉にしてみる。
その一手間が、
次の選択を考えるための前提になり、
状況を捉え直す助けになることもあります。