会社の資金繰りが限界に近づいても、従業員の生活を考えると、事業をやめる決断も、それを伝える決断も簡単にはできません。「給与を払えないまま破産してよいのか」「いつ解雇を伝えるのか」「破産管財人に任せればよいのか」と、判断が止まってしまう経営者もいるでしょう。

会社が破産を申し立てたことと、従業員の雇用契約が終了することは、同じではありません。事業を停止する場合にも、雇用の終了、未払賃金、離職関係の書類、従業員への説明をそれぞれ整理する必要があります。

この記事は、法人破産を検討する経営者・役員・人事担当者に向けて、従業員対応の確認順序を整理するものです。会社に残る資金、従業員ごとの契約、支払期限、準備できる資料を把握しながら、何をいつ進めるのかを考えていきます。

【この記事のポイント】
破産申立てや開始決定だけで、従業員全員の雇用が当然に即日終了するわけではありません。事業停止日と雇用終了日を分けて考えます

解雇には、解雇予告・解雇予告手当の問題と、解雇そのものの有効性の問題があります。資金難や破産だけで手続が不要になるわけではありません

未払給与・退職金・解雇予告手当は分けて整理します。未払賃金立替払制度にも対象となる賃金や退職時期、請求期限、上限があります

従業員への説明、離職票等の手配、給与・勤務記録の保全について、誰がいつ対応するかを申立て準備とあわせて整理します

会社の破産と、従業員の雇用が終わる時期を分けて考える

申立て・開始決定・事業停止・雇用終了は別の出来事

法人破産では、申立て前に事業を停止する場合もあれば、手続の進行に応じて対応する場合もあります。申立日、裁判所の破産手続開始決定日、最後に営業・作業をする日、従業員の雇用が終了する日は、必ずしも一致しません。

したがって、「破産するので今日から全員退職です」とだけ説明して済ませることはできません。雇用契約をいつ、どのような理由・方法で終了させるのか、その日までの勤務と賃金をどう扱うのかを具体的に確認します。

在庫管理や経理資料の整理などで、一部の従業員に引き続き協力を求める場合も、作業期間、業務内容、賃金の原資、誰が指示を出すのかを整理します。「片付けだけだから無給で来てほしい」と当然に求められるものではありません。

最初に整理する4つの項目

項目 確認すること
事業の見通し 営業・作業をいつまで続けるか、従業員の協力が必要な業務は何か
雇用契約 無期・有期の別、契約満了日、休業中の従業員、就業規則・労働協約
支払い 給与・残業代・退職金・解雇予告手当等の区分、金額、支払期限
手続と連絡 説明する日、離職関係書類の担当者、資料の所在、問い合わせ先

この一覧を申立代理人となる弁護士等と共有すると、会社の整理と並行して、従業員対応を具体化しやすくなります。法人破産そのものの手続だけでなく、従業員との雇用関係をどのように終了させるのかを別の問題として整理することが大切です。

従業員を解雇する場合、経営者は何を確認するか

解雇予告と解雇予告手当を確認する

労働基準法上、従業員を解雇する場合は、原則として少なくとも30日前に予告するか、30日に不足する日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。一定期間の予告と解雇予告手当を組み合わせることもできます。

ここでいう平均賃金は、単純に月給を30で割ればよいとは限りません。給与形態や算定期間を確認したうえで計算し、解雇を通知した日と実際の解雇日を記録しておく必要があります。

破産だけで解雇予告が不要にはならない

会社の資金難や法人破産を予定していることだけを理由に、解雇予告や解雇予告手当が当然に不要になるわけではありません。解雇予告の除外には別途要件があるため、通常の経営悪化を理由に予告を省略できると考えない方がよいでしょう。

予告手当を払うことと、解雇の有効性は別の問題

解雇予告や解雇予告手当のルールを守れば、どのような解雇でも当然に有効になるわけではありません。予告の問題と、解雇そのものに合理的な理由があるかという問題は分けて考える必要があります。

会社の事業そのものを全面的に廃止する場合と、一部の事業を残しながら一部の従業員だけを人員削減する場合とでも事情は異なります。解雇の必要性や経緯、対象者の選定が問題となる場合には、従業員への説明や協議の状況なども含めて検討します。

また、有期雇用契約の期間途中の解雇には、無期雇用の場合とは異なる制約があります。業務上の傷病による療養休業中や産前産後休業中などには、解雇制限が問題となる場合もあります。正社員・パートという呼び方だけで判断せず、各従業員の契約期間と現在の状況を確認してください。

合意退職とする場合も、合意の有無を曖昧にしないことが大切です。実際には会社側の事情による離職であるのに、事務処理を簡単にするため一律に自己都合の退職届を提出させる対応は避けた方がよいでしょう。

営業停止後に雇用契約が残る場合も整理する

営業を止める日と退職日が異なる場合には、その期間の勤務指示、賃金や休業手当の扱いを確認します。「会社は営業していないから、働いていない期間の支払いもない」と単純に判断できるとは限りません。

休業の理由や会社側の事情によっては、休業手当が問題となることがあります。有給休暇の申請、会社から貸与しているPC・携帯電話・制服などの返却、最後の給与の締め日と支払日についてもあわせて整理しておくと、退職時の混乱を抑えやすくなります。

事業停止、解雇予告、雇用終了、法人破産の申立ては相互に関係します。会社に残っている資金だけを見て日程を決めるのではなく、破産申立ての準備状況と従業員への影響をあわせて考える必要があります。

未払給与・退職金はどうなる?会社側で残すべき記録

従業員に払うお金を一括りにしない

未払給与、残業代、退職金、解雇予告手当は、発生する根拠や破産手続上の扱いが同じではありません。従業員ごとに、対象期間、支払期日、計算方法、支払済み額、未払額を分けて整理してください。

退職金については、就業規則、退職金規程、雇用契約等から、支払義務の有無と金額を確認します。退職する従業員全員について、法律上当然に同じ基準の退職金が発生するものではありません。中小企業退職金共済など会社外部の制度を利用している場合には、その制度から支払われる部分と会社自身の支払義務を分けて確認します。

法人破産では、労働債権の中でも破産手続上の扱いが分かれます。たとえば、破産手続開始前3か月間の従業員の給料請求権は、財団債権として扱われます。退職手当についても、一定の範囲が財団債権となります。

財団債権は通常の破産債権よりも優先して弁済されますが、会社に残る財産そのものが不足していれば、必ず全額が支払われるとは限りません。また、それ以外の賃金等についても、優先的破産債権となる場合があります。発生時期や債権の内容によって扱いが異なるため、未払給与を一括りにせず整理する必要があります。

従業員を優先したい場合も、支払い方を自己判断しない

従業員の生活を考え、会社に残った資金を給与の支払いに充てたいと考えることは自然です。一方で、すでに資金繰りが破綻している段階の支払いについては、債権の種類、支払時期、対象者、会社に残る財産への影響などを確認する必要があります。

「給与ならいつでも自由に支払ってよい」とも、「破産を考え始めたら給与は一切支払えない」とも一律にはいえません。従業員全体への通常の給与支払いと、特定の従業員だけへの支払いでは事情も異なります。

特定の従業員だけにまとまった金額を支払う、破産直前に退職金を増額する、在庫・車両・設備などを賃金の代わりに渡すといった対応を検討する場合には、実行する前に申立代理人となる弁護士へ確認した方がよいでしょう。

代表者個人の資金で未払給与を補いたい場合にも、会社に対する貸付として資金を入れるのか、代表者個人が直接支払うのか、代表者自身の債務整理に影響しないかなどを整理します。従業員のためという目的であっても、会社と個人の資金関係を曖昧にしないことが重要です。

未払賃金立替払制度でも、会社側の記録と協力が必要

未払賃金立替払制度は、企業倒産に伴って賃金が未払いのまま退職した労働者について、一定の要件のもとで未払賃金の一部を立て替える制度です。

ただし、法人破産をした会社の従業員であれば誰でも対象になるわけではありません。対象となる定期賃金・退職手当だけでなく、退職した時期、破産申立て等との時間的な関係、未払賃金の支払期日、請求期限などにも要件があります。

立替払制度の対象と上限を確認する

立替払の額は、対象となる未払賃金の原則8割ですが、退職時の年齢に応じた上限があります。また、賞与や解雇予告手当は立替払制度の対象ではありません。「給与が払えなくても国が全部払ってくれる」「破産すればすぐに入金される」と従業員へ約束しないよう注意してください。

会社側では、労働者名簿、賃金台帳、勤務記録、就業規則、給与規程、退職金規程、給与振込記録などを保全し、従業員ごとの未払額を確認できる状態にしておくことが重要です。法人破産の場合には、破産管財人による証明等が関係するため、申立代理人や破産管財人、関係機関との連携が必要になります。

未払賃金の一部が立て替えられた場合でも、会社の支払義務がそのまま消滅するという仕組みではありません。立替払を行った機構が、その範囲で従業員の賃金請求権を取得するため、破産手続上の債権者が従業員から機構へ移ることになります。

従業員には、いつ・何を・どう説明するか

説明時期は、事業停止と手続の準備を合わせて決める

従業員へ説明する時期について、すべての会社に共通する一つの正解があるわけではありません。事業継続の見込み、給与の支払期限、解雇予告、残務処理、取引先への対応、破産申立ての準備状況などを踏まえて決めていきます。

一方で、「申立てが終わるまでは何も言わない」と一律に決めたり、支払いの見通しが立っていないのに「来月の給与は必ず払える」と約束したりすると、後になって説明が難しくなることがあります。

従業員へ説明するときは、「すでに決まっていること」「まだ決まっていないこと」「いつまでに確認して次の連絡をするか」を分けると、分からないことまで断言せずに伝えやすくなります。

説明前にまとめておきたい内容

  • 現在の会社の状況と、事業を停止する予定の有無・時期
  • 雇用を終了させる予定があるか、その理由・方法・日付
  • 給与等の支払済み額と未払額、現時点での支払いの見通し
  • 離職票等の書類について、担当者・準備状況・連絡方法
  • 未払賃金立替払制度について確認できていることと、今後確認すること
  • 問い合わせ窓口、次に連絡する時期、個別事情の確認方法

共通の説明と個別の連絡を分ける

全体説明では会社の状況や今後の日程など共通事項を伝え、個々の給与額、休業状況、健康状態、個別の契約条件などは必要に応じて個別に扱います。説明資料や通知の写しを残し、当日欠席していた人、休職者、育児休業中の従業員などにも連絡が届く方法を確認してください。

破産管財人に資料と連絡経路を引き継ぐ

破産手続開始決定後は、会社財産の管理・処分権限が破産管財人に移ります。そのため、従業員への支払い、残っている雇用関係への対応、各種証明書類などについても、誰がどの権限で対応するのかを破産管財人と確認することになります。

もっとも、従業員の勤務実態や給与計算、休職状況、過去に行った説明などを、破産管財人が最初から把握しているわけではありません。「あとは管財人に聞いてください」と連絡を断つのではなく、必要な資料、従業員の連絡先、未処理の問い合わせ、これまで従業員へ説明した内容などを適切に引き継ぐ必要があります。

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離職票・社会保険など、会社側が進める書類対応

離職証明書と離職票を区別する

雇用保険の対象となっている従業員が離職するときは、会社側が雇用保険被保険者資格喪失届や、必要に応じて離職証明書をハローワークへ提出します。その内容に基づいてハローワークから離職票が交付されます。

会社自身が離職票を発行するわけではありません。会社が提出する書類と、ハローワークから交付される書類を分けて理解しておくと、従業員への説明もしやすくなります。

雇用保険被保険者資格喪失届の提出期限は、原則として被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内です。離職日、資格喪失日、提出期限を区別し、給与計算や勤務記録の確認に誰が対応するのかを決めておきます。

離職理由についても、実態に即して会社側の事情を記載する必要があります。実際には事業廃止や解雇による離職であるのに、自己都合退職として処理すると、従業員の雇用保険手続に影響し、紛争につながる可能性があります。

もっとも、雇用保険上の最終的な離職理由の判定はハローワークが行います。会社側から、失業給付の額や給付開始時期について確実な結果を約束しないようにします。

個人の資格喪失と、事業所の手続を分けて確認する

健康保険・厚生年金については、従業員の退職等に伴う個人の資格喪失手続と、事業廃止等によって会社自体が適用事業所に該当しなくなった場合の事業所の全喪手続を分けて確認します。

法人破産の申立日や破産手続開始決定日が来たからというだけで、すべての従業員の社会保険資格が一律にその日に喪失するわけではありません。実際の退職日や事業所の状況を踏まえて手続を進めます。

従業員が退職後に国民健康保険へ加入する、健康保険の任意継続を利用する、家族の被扶養者になるといった手続を行う際には、資格喪失を確認できる書類が必要となることがあります。届出状況や証明書の取得方法を整理し、年金事務所、健康保険の保険者、市区町村などの確認先を案内できるようにしておくとよいでしょう。

退職証明書、源泉徴収票などにも、それぞれ発行・交付のルールがあります。「離職票を用意すればすべて終わる」と考えず、従業員が退職後に必要となる書類を項目ごとに整理します。

担当者が対応できなくなる前に資料を保全する

会社を閉じる場面では、人事・経理担当者自身も退職することがあります。その結果、給与システム、勤怠管理システム、メール、クラウドサービスなどへアクセスできる人がいなくなると、離職関係書類の作成や未払給与の確認が難しくなることがあります。

必要なデータは、権限のある人が適切な方法で保全し、保管場所とアクセス方法を引き継いでおく必要があります。従業員の個人情報を含むため、無制限に共有するのではなく、申立代理人や破産管財人等が必要な範囲で確認できる状態を作ります。

書類作成が難航している場合には、その理由と現在の状況を破産管財人や関係機関へ伝え、従業員にも誰に問い合わせればよいのかを案内できるようにしておくことが重要です。

経営者がまず確認したいこと|資料がそろっていなくても相談できる

ここまで見ると、多くの資料や確認事項が必要に見えるかもしれません。しかし、すべての資料をそろえてからでなければ弁護士に相談できないわけではありません。

特に、次の給与支払日が迫っている、数週間以内に資金が尽きる、事業をいつまで続けられるか分からないといった状況では、資料収集に時間をかけすぎるより、現時点で分かっていることと分からないことを分けて伝える方が重要です。

  1. 期限を確認する:次の給与日、手元資金が尽きる見込み、営業・作業を止める予定日を整理する。
  2. 従業員ごとの状況をまとめる:契約期間、勤務状況、休業の有無、連絡先、未払額を分かる範囲で一覧にする。
  3. 資料を保全する:雇用契約書、就業規則、賃金台帳、勤務記録、退職金規程、給与振込記録など、現存する資料を廃棄・改変しない。
  4. 日程と支払いを検討する:事業停止、解雇予告、雇用終了、破産申立て、従業員への説明の順序を弁護士と調整する。
  5. 担当と窓口を決める:従業員への説明、書類提出、立替払制度への協力、問い合わせ対応を誰が行うかを整理する。

会社が法人破産をすること自体によって、代表者が未払給与のすべてを当然に個人で負担することになるわけではありません。ただし、代表者自身が個人として引き受けた義務や、別の責任が問題となる事情があれば、会社の債務とは分けて検討する必要があります。

責任への不安から、給与資料や帳簿を廃棄したり、従業員や弁護士との連絡を絶ったりすることは、かえってその後の整理を難しくします。資料が不足している場合も、そのこと自体を含めて説明できる状態を保つことが大切です。

会社を破産させるときの従業員対応は、「全員を解雇する」「あとは破産管財人に任せる」という一つの説明では整理できません。雇用が終わる時期、支払いの種類、従業員へ説明する内容、退職後につながる書類を分けて準備することで、従業員の混乱を抑えながら、経営者自身も次の対応を判断しやすくなります。

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