示談書(合意書、和解書)。
ネットの誹謗中傷の問題が「話し合いで終わりそう」になったとき、
最後に必要になるのがこの示談書です。
ここで一番多い失敗は、示談書案の条項を盛りすぎることです。
口外禁止を強くしすぎる。
違約金を重くしすぎる。
再投稿禁止を広げすぎる。
謝罪文を“断定”で固めすぎる。
結果として、まとまらない。
まとまっても、あとで揉める。
蒸し返しが止まらない。
示談書の目的を、「勝つこと」に寄せ過ぎるとまとまりません。
目的を終わらせることにすると、比較的スムーズに進みます。
このページでは、ネット問題を訴訟をせずに解決するための示談書(合意書など呼び方はいろいろです)の
条項を盛りすぎず、蒸返しを防ぐための書式・ひな形を書いておきます。
まずはこれを土台にして、必要なら条項を足す。
逆に、迷う条項は足さない。
そういう順番の方が、結果として早く・静かに終わりやすいです。
※個別の事案ごとに必要な条項は変わります。
示談書(合意書)書式・ひな形|蒸返しを止める
〇〇〇〇(以下「甲」という。)及び〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、乙のインターネット上の投稿に関し、下記のとおり合意した。
第1条(対象投稿の特定)
本件合意の対象は、別紙記載の投稿(以下「本件投稿」という。)とする。
第2条(謝罪)
乙は、本件投稿により甲に対し迷惑及び不利益を与えたことを認め、反省の上、甲に対して謝罪する。
第3条(削除・非公開化)
乙は、本件投稿及び本件投稿に関連する甲に関する投稿(別紙に記載した範囲)を、令和 年 月 日までに削除する。
第4条(解決金)
乙は、本件の解決金として、金 円を、令和 年 月 日までに、甲の指定する口座に振込送金して支払う(振込手数料は乙の負担とする。)。
第5条(再投稿・再言及の禁止)
乙は、以後、インターネット上(SNS、掲示板、口コミサイト、ブログ等を含む。)であるかを問わず、甲の社会的評価を低下させる、侮辱する(名誉感情侵害を含む)、またはプライバシーを侵害する等の誹謗中傷をしないことを誓約する。
第6条(清算条項)
甲及び乙は、甲乙の間には、本書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認し、以後名目を問わず一切の請求を行わない。
本合意成立の証として本合意書を2通作成し、甲乙各自が署名押印した上、各自1通ずつを保管する。
以上
令和 年 月 日
(甲)住所 〒
氏名 (署名)
(乙)住所 〒
氏名 (署名)
1 媒体:X/掲示板/口コミサイト( )
2 URL:
3 投稿日時:令和 年 月 日 時 分頃
4 投稿者アカウント名:
5 投稿内容:
「 」
6 削除対象の範囲(該当するものに○):
①URL:
②URL:
③URL:
書式・ひな形の使い方(空欄の埋め方と、優先順位)
この書式・ひな形は、条項を盛って勝ちに行くためのものではなく、蒸し返しを止めて終わらせるためのものです。
空欄は全部を完璧に埋める必要はありません。優先順位は次の順番です。
-
対象投稿の特定(第1条・別紙):ここがズレると全条項が崩れます。
-
支払い(第4条):金額より先に、期限と支払方法(一括or分割)で揉めない形にします。
-
清算(第6条):追加請求・蒸し返しを止める核心です。
-
再発防止(第5条):広げすぎず、違反認定で揉めない線に整えます。
1)対象投稿の特定:URL/投稿日時/該当箇所/削除状況
ここが一番重要です。「何についての合意か」が曖昧だと、後から
-
「その投稿は対象外だ」
-
「削除の範囲が違う」
-
「別の投稿も入っている/入っていない」
という形で揉めます。
別紙には、次のような情報を入れると何の問題を対象としているのか分かります。
-
媒体(X/掲示板/口コミサイト名など)
-
URL(投稿単体URL。可能ならスレッドURLも)
-
投稿日時(表示のタイムスタンプ)
-
アカウント名(投稿者表示名・IDなど)
-
該当箇所(問題視されている文言。長文なら該当部分だけ引用)
-
削除状況(削除済み/非公開化済み/現存。削除済みでも「削除済み」と明記)
削除対象の範囲(関連投稿)は、広げすぎると揉めます。
まずは、
-
本件投稿そのもの
-
引用・固定・まとめなど「本件投稿に直接紐づくもの」
に絞って列挙するのが安全です。
2)支払い:金額・期限・方法・振込手数料
支払い条項で揉める原因は、金額よりも「いつ/どう払うか」が曖昧なことです。
最低限、次を確定させます。
-
金額(慰謝料・解決金としての趣旨)
-
期限(「令和○年○月○日までに」)
-
方法(振込送金/指定口座/一括・分割)
-
振込手数料(乙負担と明記)
分割にする場合は、ひな形を崩さず、
-
分割回数
-
各期限
-
遅れた場合の扱い(※最小構成なら入れなくてもよいが、入れるなら簡潔に)
を箇条書きで足すだけに留める方が、揉めにくいです。
3)清算:追加請求を止める(これが蒸し返し防止の核心)
清算条項は、この合意書の目的そのものです。
ポイントは2つです。
-
「本件投稿に関し」など対象を縛っておくか、別件も含めた相手との争いを全て含ませるのか
-
「以後名目を問わず一切請求しない」まで書いて、蒸し返しを止める
ここが弱いと、「あとから追加で請求」が起きやすくなります。
4)再発防止:範囲を狭く・対象を特定(“違反しているかどうかの判断で揉めない”ライン)
再投稿禁止は、広く書けば安心に見えますが、広いほど違反しているかどうかの判断で揉めることがあります。
最小構成のコツは、
-
対象:甲に関する投稿に限る
-
媒体:インターネット上(SNS等)で十分
-
禁止の中身:「誹謗中傷」を“評価低下/侮辱/プライバシー侵害”に寄せておく
という整理です。
「広く書くのは実務でも普通です。ただ、ひな形としては“何を誹謗中傷とみるか”を一行だけ置いておくと、違反しているかどうかの判断で揉めにくくなります。
迷ったら「対象投稿の特定」と「清算」だけは弱くしない。ここが固まれば、多少の枝葉が荒くても、蒸し返しは止めやすくなります。
次に読む記事
示談したときに揉めやすい条項(口外禁止/謝罪/再投稿禁止/清算条項など)の落とし穴を整理しています。
示談書(合意書)で揉めやすい条項とは?口外禁止・謝罪・再発防止・清算条項の落とし穴
※近日公開予定
金額の不安が強い人へ。相場の数字より先に「金額が動く条件(幅)」を押さえると、冷静に判断できます。
ネット誹謗中傷の慰謝料相場はいくら?金額が決まる基準と“幅”を実務目線で整理
「争う/争わない」で迷っている人へ。いまの状況で、どこで区切るのが合理的かを条件で整理します。もとは被害者側の視点ですが、投稿者側にも当てはまるので参考にしてください。
誹謗中傷に、あえて戦わないという選択について
どの段階から整理しますか
インターネット問題は、必ずしも手続から始まるわけではありません。
いまの自分の状況に合わせて、整理する段階を選ぶことができます。
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何が起きているのか構造から考える|判断の入口
投稿を見たとき、まず何が起きているのか。 感情と事実を切り分けるための入り口です。
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感情と状況を整理する|判断前の整理
削除や開示を選ぶ前に、 自分が何に困っているのかを静かに整理する記事群です。
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制度や具体的対応を知る|判断の実践
表現の自由、名誉毀損、発信者情報開示など、 実際に起きる問題を題材に、 判断を具体化していくシリーズです。