誹謗中傷を書かれたとき、
まず浮かぶのは、
「消したい」という気持ちかもしれません。

検索すれば出てくる。
誰かが見ているかもしれない。
それだけで、
日常が少しずつ削られていくことがあります。

そこで出てくるのが、
誹謗中傷の削除請求という選択肢です。

けれど、
削除請求は思っているほど単純ではありません。

すぐに消えるとは限らない。
費用もかかる。
時間もかかる。

そして何より、
削除=解決とは限らない、
という現実があります。

このページでは、
削除請求の流れ、
費用や期間の目安、
そして成功率の現実を整理します。

そのうえで、
「本当に削除を目指すべきか」
という判断軸まで、
静かに考えていきます。

削除請求とは何か

誹謗中傷の削除請求とは、
インターネット上に掲載された投稿について、
「その情報を消す」ことを求める手続です。

投稿者を特定する手続ではありません。

まずは、
いま公開されている情報を、
これ以上拡散させないための対応です。

対象になるのは、
SNSの投稿、
掲示板の書き込み、
口コミサイト、
まとめサイト、
ニュース記事のコメント欄など、
さまざまです。

削除請求の方法は、
大きく分けると三つあります。

一つは、
サイトの通報フォームから行う任意の削除依頼。

二つ目は、
弁護士名での内容証明や申入書による削除請求。

三つ目は、
裁判所を通じた仮処分の申立てです。

どの方法を選ぶかは、
投稿の内容、
拡散の状況、
緊急性、
そして、
相手方の対応傾向によって変わります。

ここで重要なのは、
削除請求は「違法かどうか」を中心に判断されるという点です。

名誉毀損なのか。

侮辱なのか。

プライバシー侵害なのか。

あるいは、
各サービスの利用規約に違反しているのか。

実務上、
媒体によっては、
厳密な違法性よりも、
利用規約違反の有無を重視するケースもあります。

たとえば、
人格攻撃、
差別的表現、
嫌がらせ行為などは、
規約違反として削除されることがあります。

一方で、
抽象的な批判や評価については、
削除に応じない運用もあります。

削除請求は、
感情の問題ではなく、
構造の問題です。

「ひどい」と感じることと、
「削除されるかどうか」は、
必ずしも一致しません。

だからこそ、
何が侵害されているのかを、
言葉にして整理する必要があります。

そしてもう一つ、
削除請求には、
時間との関係があります。

削除されたあと、
発信者情報のログが残らない可能性があるからです。

媒体によっては、
投稿が削除されると、
IPアドレスなどの通信記録が一定期間で消去されることがあります。

そのため、
将来的に発信者情報開示を検討する可能性がある場合には、
削除と開示の順序や並行性を慎重に判断する必要があります。

削除するのか。

特定を優先するのか。

それとも、
両方を同時に検討するのか。

削除請求は、
単なる「消してほしい」というお願いではありません。

その後の選択肢を左右する、
最初の分岐点です。

削除請求の具体的な流れ

削除請求は、
思いつきで送るものではありません。

順番があります。

そして、
その順番を間違えると、
あとから選択肢が狭まることもあります。

一般的な流れは、
次のようになります。

① 証拠の保存
② 削除理由の整理
③ 媒体への削除依頼
④ 応じない場合の法的手続(仮処分)

① 証拠を確実に保存する

最初にやるべきことは、
削除ではありません。

証拠の保存です。

投稿のURL、
投稿日時、
アカウント名、
表示画面のスクリーンショット。

可能であれば、
ページ全体の保存や、
タイムスタンプ付きの保存を行います。

ここでいうタイムスタンプとは、
「その日時にその内容が存在していた」
ことを客観的に証明できる形で記録することです。

単なるスクリーンショットよりも、
証拠価値が高まります。

削除されてしまえば、
その内容は二度と確認できない可能性があります。

もし発信者情報開示請求を考えることになった場合には、
証拠がなければ、
何も始まりません。

今は削除だけを考えていたとしても、
後から発信者情報開示請求を検討する可能性は十分にあります。

ここでしっかり証拠を確保しておきましょう。

② 削除理由を法的に整理する

次に必要なのは、
削除したいという感情ではなく、
削除の根拠となる構造です。

なぜ削除されるべきなのか。

どの権利が侵害されているのか。

名誉毀損なのか。

侮辱なのか。

プライバシー侵害なのか。

あるいは、
各サービスの利用規約違反なのか。

Google、X(旧Twitter)、Instagramなどの主要サービスは、
独自のコミュニティガイドラインを持っており、
違法とまでは言えない投稿でも、
規約違反として削除されることがあります。

人格攻撃や差別的表現、嫌がらせ行為としての投稿は、
規約違反として削除されることがあります。

一方で、
抽象的な評価や意見は、
削除されないこともあります。

「ひどい」では足りません。

削除される構造を、
説明できるかどうか。

ここが分岐点です。

③ 媒体への削除依頼

整理ができたら、
媒体へ削除を求めます。

多くのSNSやサイトには、
通報フォームがあります。

軽微なケースでは、
これだけで削除されることもあります。

しかし、
争点が複雑な場合や、
相手が反論している場合には、
弁護士名での正式な請求が必要になることもあります。

同じ内容でも、
媒体が違えば結論が変わることも珍しくありません。

削除に応じる媒体もあれば、
裁判所の判断がなければ応じない媒体もあります。

④ 仮処分という選択肢

任意に削除されない場合、
裁判所に仮処分を申し立てることになります。

仮処分は、
迅速に削除を求めるための手続です。

通常の訴訟よりも早く、
数か月程度で判断が出ることが多いです。

ただし、
必ず認められるわけではありません。

削除の必要性と緊急性を、
裁判所がどう評価するかによって結論は分かれます。

削除請求と発信者情報開示の関係

削除と開示は、
まったく別の手続です。

しかし、
現実の判断では、
強く結びついています。

削除だけを目指すのか。

投稿者の特定まで進むのか。

この選択によって、
最初に取るべき行動は変わります。

削除が目的の場合

投稿が消えればよい。

それが最終目的であれば、
削除請求を最優先に進めることになります。

通報フォームによる対応、
弁護士名での削除依頼、
仮処分。

媒体に応じた手段を選びます。

削除だけで解決するケースも、
もちろんあります。

精神的な負担が軽減され、
拡散が止まり、
それ以上争う必要がない場合もあります。

特定まで視野に入れる場合

一方で、
投稿者を特定したいと考えている場合、
削除の順番には注意が必要です。

削除されると、
投稿の確認ができなくなる可能性があります。

さらに、
ログの保存期間との関係で、
開示手続に影響が出ることもあります。

媒体によっては、
削除後にログの管理方針が変わる場合もあります。

そのため、
発信者情報開示請求を検討している場合は、
証拠保存と戦略設計を先に行うことが重要になります。

発信者情報開示請求の具体的な流れや費用、期間については、
別の記事で詳しく整理しています。

発信者情報開示とは?流れ・費用・期間と「本当にやるべきか」の判断軸

「削除してから考える」は危険か

削除してから、
落ち着いて考えよう。

そう思うことは、
自然な感情です。

しかし、
削除後に開示をしたくなった場合、
時間的制約や証拠の問題で、
選択肢が狭まることがあります。

削除と開示は、
直列ではありません。

どちらを優先するかは、
最初に決めるべき判断です。

判断の軸は「目的」

いま求めているのは、
投稿の消滅か。

それとも、
責任の明確化か。

削除は、
「表面」を止める手続です。

開示は、
「発信者」に向かう手続です。

両者は似ているようで、
まったく違う方向を向いています。

だからこそ、
感情より先に、
目的を整理する。

削除請求を始める前に、
一度立ち止まって考えるべきポイントです。

削除請求の成功率の現実

削除請求を考えるとき、
多くの人が最初に知りたいのは、

「結局、消えるのか」

という一点です。

ここで先に言っておくと、

削除請求は、

「やれば消える」

という性質のものではありません。

成功率は、

投稿の内容だけで決まらず、

媒体の運用と、
証拠と、
整理の仕方で変わります。

そして、

同じ内容でも、

消える場所と、
消えない場所が出ることがあります。

「違法だから消える」とは限らない

削除の判断は、

必ずしも
「違法かどうか」
だけで決まりません。

もちろん、
名誉毀損やプライバシー侵害など、

法的に問題がある投稿は、

削除の根拠になり得ます。

けれど、

実務では、

違法性が明確でも、
任意には消えないことがあります。

なぜなら、

削除の窓口にいるのは裁判所ではなく、

各サービスの運営者だからです。

運営者は、

「どこまでを削除するか」
を、

自分たちの基準で線引きしています。

その基準は、

法の言葉だけではなく、

利用規約や運用方針にも支えられています。

「違法性」だけでなく「規約違反」で動く媒体もある

媒体によっては、

違法性だけでなく、
規約違反を重視する運用がなされています。

たとえば、

人格攻撃や差別的表現、
嫌がらせ行為としての投稿は、

規約違反として削除されることがあります。

ここは、

法的な評価よりも、

サービスとしての健全性を優先している領域です。

逆に言えば、

法的に争いがある投稿でも、

規約違反として整理できれば、

削除に近づくことがあります。

ただし、

規約違反という言葉だけで
自動的に削除されるわけではありません。

どの条項に触れるのか。

どの行為が問題なのか。

その整理が必要です。

削除されやすい投稿/されにくい投稿

削除されやすいのは、

次のように、

「線引きが明確な投稿」です。

たとえば、

氏名や顔写真、
勤務先や住所など、

個人を特定できる情報が含まれている場合。

あるいは、

事実の摘示があり、

社会的評価を下げる内容で、

真実性や公共性が見えない場合。

また、

特定の個人に向けた
直接の罵倒や脅迫など、

サービス側としても放置できない類型は、

削除に動きやすいことがあります。

一方で、

削除されにくいのは、

「評価や意見の形をしている投稿」です。

たとえば、

抽象的な悪評。

主観的な感想。

皮肉や婉曲表現。

こうした投稿は、

被害感が強くても、

削除の線引きが難しい領域に入ります。

ここは、

表現の自由との調整が、

正面から出てくる場所です。

「証拠」と「説明」が成功率を上げる

同じ投稿でも、

成功率が大きく変わることがあります。

その差を作るのは、

証拠と説明です。

投稿を見れば分かるだろう、

と思っていても、

運営者には伝わらないことがあります。

なぜなら、

運営者は、

あなたの背景も、
被害の文脈も、

知らないまま判断するからです。

だからこそ、

「何が問題なのか」
を、

誰が読んでも同じ理解になる形で、

整理して示す必要があります。

削除は、

感情では動きません。

構造で動きます。

削除できたとして、それで終わるとは限らない

削除されれば、

それで解決だと思える人もいます。

実際、

「見えなくなること」
が、

気持ちの区切りになることもあります。

ただ、

削除がゴールになるかどうかは、

人によって違います。

たとえば、

同じ内容が別の場所に転載されている場合。

検索結果に痕跡が残り続ける場合。

あるいは、

削除されたことで
「誰が書いたのか」が分からないままになり、

それが引っかかりとして残る場合。

削除は、

確かに大きな一歩です。

けれど、

削除=解決

と決めつける必要もありません。

いま自分が欲しいのは、

「見えなくなること」なのか。

「責任が明確になること」なのか。

それとも、

「これ以上振り回されないこと」なのか。

成功率を考えるというのは、

削除できるかどうかだけではなく、

削除が自分の解決になるのかどうかを、

一度確認することでもあります。

削除請求にかかる期間の現実

削除請求は、

思い立ったその日に結果が出る手続ではありません。

けれど、

何年もかかるものでもありません。

問題は、

どの段階で止まるか、

どの方法を選ぶか、

そして、

媒体がどう動くかです。

任意の削除依頼で終わる場合

もっとも早いのは、

媒体の通報フォームや削除依頼で、

任意に削除されるケースです。

早ければ数日、

通常でも1〜2週間程度で
対応されることがあります。

ただし、

これは、

明確な規約違反や、

分かりやすい権利侵害がある場合に限られます。

判断が難しい投稿は、

回答までに時間がかかったり、

何度もやり取りが必要になったりします。

弁護士を通じて請求する場合

通報フォームでは動かない場合、

弁護士を通じて正式な削除請求を行うことがあります。

弁護士だからといって、
必ず書面郵送になるわけではありません。

媒体によっては、
通常の削除フォームから申請することもありますし、

法務窓口や専用の連絡先を設けている媒体もあります。

違いは「方法」よりも、

どの権利が侵害され、

なぜ削除すべきなのかを、
法的構造で整理して伝える点にあります。

その整理があることで、

媒体側も判断しやすくなります。

結果として、

任意削除に応じる可能性が高まることがあります。

もっとも、

弁護士名であっても、

媒体が削除を拒否するケースはあります。

その場合は、
仮処分などの法的手続に進むかどうかを検討することになります。

仮処分に進む場合の期間

任意に削除されない場合、

裁判所に仮処分を申し立てます。

仮処分は、

通常の訴訟よりも迅速な手続ですが、

それでも、

申立てから判断まで
おおよそ1〜3か月程度は見込む必要があります。

争点が複雑であれば、

さらに時間がかかることもあります。

また、

裁判所が削除を認めたとしても、

実際の削除までに
一定の事務処理期間が必要です。

「急いでいる」ほど、準備が重要になる

期間を短くしたいと考えるのは、

当然の感情です。

しかし、

急いで雑に請求すると、

かえって遠回りになることがあります。

削除理由が整理されていない。

証拠が不十分。

権利侵害の説明が抽象的。

こうした状態では、

媒体も裁判所も動きません。

結果として、

最初からやり直すことになります。

削除請求の期間は、

媒体の対応速度だけでなく、

こちらの準備の精度にも左右されます。

削除と開示の時間軸は違う

削除請求は、

比較的短期間で結論が出る可能性がある手続です。

一方で、

発信者情報開示は、

通常、
数か月単位の時間がかかります。

この時間差を理解せずに、

「とりあえず削除してから考えよう」

と動くと、

後で選択肢が変わることもあります。

削除だけでよいのか。

特定まで見据えるのか。

時間という軸も含めて、

どの道を選ぶのかを決めることが大切です。

期間をどう受け止めるか

1週間で終わる場合もあれば、

数か月かかる場合もある。

この幅があること自体が、

削除請求の現実です。

その間、

投稿は残り続ける可能性があります。

あるいは、

途中で削除されるかもしれません。

期間は、

単なる数字ではありません。

その時間をどう過ごすのか、

自分の生活や仕事にどんな影響があるのか。

そこまで含めて、

削除請求という選択は存在しています。

削除請求にかかる費用の現実

削除請求は、
無料でできる場合もあります。

しかし、
必ずしもそれだけで済むとは限りません。

費用は、
どの段階まで進むかによって
大きく変わります。

① 通報フォームのみで完結する場合

多くのSNSや投稿サイトには、
削除申請フォームがあります。

規約違反が明確な場合には、
これだけで削除されることもあります。

この段階であれば、
費用はかかりません。

ただし、
対応の可否は媒体の判断に委ねられます。

理由の説明が不十分な場合や、
評価・意見と判断される場合には、
削除されないこともあります。

② 弁護士に依頼して任意請求を行う場合

通報フォームで動かない場合や、
主張を法的に整理する必要がある場合には、
弁護士に依頼して削除請求を行うことがあります。

この段階では、
数万円から十数万円程度の費用がかかることが一般的です。

投稿の数や媒体の数が増えれば、
その分費用も増える可能性があります。

ここで支払うのは、
「削除してもらう費用」というよりも、
削除の根拠を法的構造として整理する専門的作業に対する費用です。

③ 仮処分まで進む場合

任意に削除されない場合、
裁判所に仮処分を申し立てることになります。

この段階になると、
費用は数十万円単位になります。

弁護士費用に加え、
印紙代や郵券などの実費も必要になります。

投稿数が多い場合や、
複数媒体にまたがる場合には、
さらに増える可能性があります。

仮処分は迅速な判断を得るための手続ですが、
必ず認められるわけではありません。

費用対効果という視点

ここで考えておきたいのは、
削除によって何を得たいのかという点です。

検索結果から消えること。

拡散を止めること。

社会的評価の回復。

それが、
かかる費用と見合っているかどうか。

削除請求は、
金銭的な回収を目的とする手続ではありません。

被害の拡大を止めるための選択です。

費用を「損」と見るのか、
被害を止めるための「コスト」と見るのか。

その視点の違いが、
判断を分けます。

削除請求をするかどうか。

開示まで進むのか。

どちらも、
急ぐより、
理解してから選ぶほうがいい。

発信者情報開示の全体像を知りたい方は、
こちらも参考にしてください。

発信者情報開示とは?流れ・費用・期間と「本当にやるべきか」の判断軸

どの段階から整理しますか

インターネット問題は、
必ずしも手続から始まるわけではありません。

いまの自分の状況に合わせて、
整理する段階を選ぶことができます。