SNSや掲示板、口コミサイトで自分を傷つける投稿を見つけ、「警察に相談したい」「投稿した人を処罰してほしい」と考えることがあります。ただ、刑事対応を進めることと、投稿を消すこと、慰謝料を受け取ることは同じではありません。

まず確認したいのは、安全上の危険があるか、投稿を証拠として残せるか、そして自分が何を実現したいかです。刑事手続の結果を待たず、削除や民事上の対応を並行して検討する場面もあります。

この記事では、ネット上の投稿被害を受けた方に向けて、名誉毀損・侮辱の基本、警察相談・被害届・告訴の違い、期限と準備事項を整理します。

【この記事のポイント】
危害が迫っている場合は、安全確保と緊急通報を優先する
投稿本文だけでなく、URL・日時・アカウント情報・前後の文脈を保存する
警察相談、被害届、告訴は役割が異なり、処罰や逮捕を保証するものではない
名誉毀損罪・侮辱罪の告訴は、原則として犯人を知った日から6か月という期間に注意する
削除・投稿者の特定・損害賠償は、刑事手続とは別に検討する

まずは安全確認と証拠保存をする

危害が迫っているときは、証拠をそろえることより安全を優先する

具体的な危害の予告、現に起きている待ち伏せやつきまといなど、緊急の警察対応が必要な場合は110番通報を検討してください。投稿が名誉毀損や侮辱に当たるかを自分で判断してから連絡する必要はありません。

緊急通報を要する状況ではないものの、住所・勤務先の公開や繰り返す投稿に不安がある場合は、最寄りの警察署や警察相談専用電話「#9110」などへ相談できます。個人情報が掲載されたという事情だけで、すべて一律に110番の対象となるわけではありません。

安全を損なわない範囲で投稿のURLや画面を残せると役立ちますが、資料を完全にそろえるために緊急連絡を遅らせないことが重要です。削除・非表示などの被害拡大防止も並行して考えます。

投稿本文と、誰の何について書かれたかが分かる情報を残す

投稿は削除・編集されたり、アカウントごと消えたりすることがあります。警察相談や削除依頼に備え、次の情報をできる範囲で保存してください。

  • 投稿本文、画像や動画、関連するコメント
  • 投稿のURL、投稿ID、投稿日時、保存した日時
  • アカウント名・ID、プロフィール、投稿者のページ
  • 返信先、引用元、前後のやり取り
  • 公開範囲、グループの参加人数などが分かる情報
  • 自分が対象だと分かる記載や、第三者から届いた連絡

悪口の部分だけを切り取ると、投稿先や文脈が分からなくなることがあります。スクリーンショットは画面全体も残し、加工前のデータを保管します。必要に応じてページの印刷やPDF保存、動画の記録も検討します。

性的画像、とくに児童ポルノに当たり得る画像については、安易にダウンロード・複製・転送せず、URLや投稿者情報、日時を記録して警察等に保存方法を相談してください。被害を訴える目的でも、画像や住所などを再投稿して広めないようにします。

被害の経緯を時系列でまとめる

「いつ投稿を見つけ、何が起きたか」を短い時系列にします。投稿が複数ある場合は一覧にし、中心となる投稿と関連投稿を分けると、相談先に説明しやすくなります。保存資料には番号を付け、どの出来事に対応するかを示す方法もあります。

職場や取引先からの問い合わせ、予約の取消し、体調への影響、受診記録などがあれば保管します。ただし、売上減少や診断書がなければ相談できないということではありません。手元にある資料と、まだ確認できていない事情を分けて伝えてください。

相手への抗議を始めると投稿が消えたり、やり取りが激化したりする場合があります。まず記録を残し、公開の反論や直接連絡が目的に合うかを検討します。

警察相談・被害届・告訴は何が違う?

警察相談は、犯罪被害や安全上の問題を伝える入口

警察には、投稿内容や被害の経緯、安全上の不安を伝え、被害申告に必要な資料などを相談できます。初めから自分で罪名を決める必要はありません。「この投稿が何罪に当たるか」より、何が書かれ、誰が見られ、どのような被害があるかを具体的に説明することが大切です。

相談時には、投稿の一覧、証拠、被害の時系列、相手について分かっている情報を持参します。担当窓口、相談日、今後追加する資料、次の連絡方法を記録しておくと、その後の確認がしやすくなります。

一方、削除請求や発信者情報開示、損害賠償の見通しまで、警察がすべて判断・代行するわけではありません。民事上の対応については、別に弁護士等へ相談する場面があります。

被害届は被害事実の申告、告訴は処罰を求める意思表示

対応 主な意味 注意点
警察相談 被害や不安を伝え、対応を相談する 相談だけで告訴が済んだとは限らない
被害届 犯罪による被害を受けた事実を申告する 告訴とは別のもの
告訴 犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める 告訴できる人・期間・取消しの扱いを確認する

被害届と告訴は制度上別のものです。名誉毀損罪・侮辱罪について処罰を求める場合は、単に被害を届け出たというだけでなく、告訴として受理されているかを確認しておくことが重要です。

告訴は、検察官または司法警察員に書面または口頭で行うことができます。口頭の場合には調書が作成されます。どの犯罪事実について処罰を求めるのかが分かるよう、対象となる投稿や経緯を整理しておきます。

相談や受理から、逮捕・起訴が自動的に決まるわけではない

受理と逮捕・起訴は別の判断

被害届や告訴が受理されても、直ちに投稿者が特定され、逮捕・起訴されるとは限りません。投稿内容、証拠、投稿者との結び付きなどを調べたうえで、捜査機関が判断します。捜査が進んでも、逮捕を伴わずに行われる場合があります。

最終的な起訴・不起訴は検察官が判断し、起訴された事件の有罪・無罪や刑は裁判所が判断します。「逮捕されなければ何も進んでいない」「告訴すれば必ず処罰される」と捉えないことが大切です。

窓口で追加資料を求められた場合は、何が不足しているか、どのような形で提出するかを確認します。相談としての対応なのか、被害届・告訴の提出に向けた確認なのかも区別しておくと、後の行き違いを減らせます。

名誉毀損・侮辱が問題になる投稿の基本

名誉毀損は、具体的な事実を示して社会的評価を害する場合

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損する行為について問題になります。たとえば犯罪や不正をしたという投稿は、真偽を確かめられる具体的な事実を示す表現として検討されます。ただし、言葉の一部だけでなく、前後の文脈や一般の読者が受け取る意味から判断します。

実名がなくても、写真、勤務先、地域、過去の投稿などから誰を指すか分かる場合があります。逆に、投稿を読んだ第三者が対象者を特定できるかは、確認すべき点の一つです。

また、実際に解雇された、売上げが落ちたといった具体的な結果がなければ、名誉毀損が問題にならないというわけではありません。被害の資料は役立ちますが、犯罪の成立要件と、被害の大きさを示す事情は分けて考えます。

本当のことでも直ちに処罰対象から外れるわけではない

刑法230条は、示された事実が真実かどうかにかかわらず名誉毀損が問題となることを定めています。

一方、公共の利害に関する事実について、専ら公益を図る目的があり、摘示した事実が真実であることが証明された場合には、刑法230条の2により処罰されないとされています。

そのため、「本当だから問題ない」「評価を下げる内容だから必ず犯罪」という両方の決めつけを避ける必要があります。公共性、公益目的、真実性など、刑法230条の2の要件を含めて検討します。

侮辱は、具体的な事実を示さない表現でも問題になる

侮辱罪は、具体的な事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱する行為について問題になります。ただし、ある単語を使っただけで自動的に成立するものではありません。文脈、対象者、表現の意味や程度などを踏まえて判断します。

不快な感想、厳しい評価、意見の対立がすべて犯罪になるわけでもありません。相談時は、問題と思う投稿を自分の言葉に置き換えず、原文と前後のやり取りを示すことが重要です。

現行の法定刑は、名誉毀損罪が3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、侮辱罪が1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料です。ただし、これは刑の範囲であり、個別の投稿についてそのまま刑が決まるという意味ではありません。過去の投稿については、行為時の法令や経過措置の確認も必要です。

DM・限定公開・グループ投稿では公開範囲も確認する

名誉毀損罪・侮辱罪では、公然性が要件になります。一般に、不特定または多数の人が認識できる状態かが問題になります。公開SNSの投稿と、被害者本人にだけ送ったDMは、同じ前提で判断できません。

少人数への発言でも、不特定・多数の人へ伝わる具体的な事情があれば公然性が問題になる場合があります。ただし、技術的に転送できるというだけで、すべてのDMに公然性があるとはいえません。参加人数、メンバーの関係、共有・転送の経緯などを確認します。

公然性が認められない場合でも、脅迫など別の犯罪や民事上の問題が生じることはあります。「一対一だから何を言っても問題ない」とは限りません。

会社・店舗への投稿では、別の犯罪が問題になることもある

事業者への投稿では、虚偽の風説による信用毀損や業務妨害など、名誉毀損とは別の犯罪が問題になる場合があります。低評価や厳しい意見だけで当然に犯罪になるわけではないため、虚偽の事実が含まれているか、具体的な業務への支障があるか、投稿以外の行為を伴っているかを分けて整理します。

事業者が公開返信をする場合も、顧客情報や利用履歴を必要以上に公開し、別の問題を生じさせないよう注意が必要です。

告訴の期限と、示談・取消しの注意点

名誉毀損罪・侮辱罪は親告罪

告訴期間と起算点を早めに確認

名誉毀損罪・侮辱罪は、原則として告訴がなければ起訴できない親告罪です。刑事訴訟法235条では、親告罪の告訴は原則として犯人を知った日から6か月を経過するとできないとされています。

ここでいう起算点は、単に投稿を発見した日と常に同じではありません。他方、相手の住所や氏名がすべて判明するまで、必ず期間が始まらないとも断定できません。匿名アカウントの背後の人物をどこまで把握していたかなど、具体的な事情による確認が必要です。

「警察へ相談したから期限は気にしなくてよい」「開示請求中なら自動的に期間が止まる」と考えず、告訴を希望する場合は早めに提出時期と必要な資料を確認してください。

告訴期間、公訴時効、記録の保存期間は別のもの

告訴期間とは別に、検察官が起訴できる期間に関わる公訴時効があります。また、投稿先サービスや接続事業者が保有する記録にも保存期間があります。どれか一つに余裕があっても、他の期限や記録消去の問題がなくなるわけではありません。

とくに匿名投稿では、投稿から時間が経つことで特定に必要な情報が失われる可能性があります。投稿日時、相手について分かった時期、警察や弁護士へ相談した日を記録し、各手続の期限を別々に確認します。

相手が分からない段階でも警察への相談はできます。被疑者不詳での告訴を検討できる場合もあるため、相手の特定が終わるまで何もできないと決めつけないことが大切です。

示談をする場合は、告訴取消しや請求放棄の意味を確認する

示談では、謝罪、金銭の支払い、投稿削除、再投稿防止、告訴の取扱いなどが話し合われることがあります。何に合意するかによって、その後に取れる対応が変わります。

告訴を取り消した後は再告訴できない

告訴は起訴前まで取り消すことができますが、取り消した人は同じ事件について再び告訴することができません。「支払いがなければ、後からもう一度告訴すればよい」と考えて、先に取り消すことには注意が必要です。

また、示談したことだけで自動的に告訴が取り消されるわけではありません。告訴を取り消す約束、損害賠償請求を放棄する条項、履行時期などを分けて確認します。相手との直接交渉に不安がある場合は、合意する前に相談してください。

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削除・投稿者特定・損害賠償をどう組み合わせるか

投稿を消したい場合は、刑事手続の結果を待たずに検討する

警察に相談したり告訴したりしても、それだけで投稿が自動的に削除されるわけではありません。投稿を見えなくすることが目的なら、プラットフォームの通報・削除窓口や、必要に応じて裁判所を利用した削除手続を別に検討します。

削除によって自分で確認できる証拠が減ることがあるため、安全上の支障がなければ先に保存しておきます。ただし、危険や被害拡大が切迫している場面では、完全な証拠保存が終わるまで削除対応を待つ必要があるとは限りません。

発信者情報開示と、警察の捜査は別の手続

匿名投稿者への損害賠償請求などを検討する場合には、発信者情報開示請求が選択肢になります。裁判所の発信者情報開示命令などを通じて、投稿先サービスや接続事業者が保有する情報の開示を求めます。

開示には要件があり、必ず特定できるわけではありません。また、開示された通信契約者やアカウント登録者が、実際の投稿者と一致しない場合もあります。回線の共用や第三者利用などの事情も踏まえて確認します。

警察が捜査で相手を特定しても、被害者が氏名・住所などの情報を当然にすべて受け取れるわけではありません。刑事対応を民事上の特定手続の代わりと決めつけず、必要に応じて並行して検討します。

処罰と損害回復は分けて考える

刑事手続は犯罪に対する責任を問うものであり、慰謝料の回収や謝罪を自動的に実現する制度ではありません。罰金も被害者へ支払われるものではありません。損害回復を望む場合は、示談交渉や民事上の損害賠償請求が別に問題になります。

刑事と民事では判断する要件や手続が異なるため、不起訴になったことだけで、民事責任まで必ず否定されるわけではありません。自分の希望が削除、処罰、謝罪、金銭的回復のどれにあるのかを整理しておくと、相談時に優先順位を伝えやすくなります。

自力で相手を決めつけ、公開しない

アカウント名や文体だけで投稿者を推測し、実名・勤務先・家族情報を公開すると、別人を巻き込むおそれがあります。実際の投稿者であっても、公開の内容や方法によっては名誉毀損やプライバシー侵害などの問題になり得ます。

相手について分かった情報は証拠として保存し、相談先に伝えることに使います。晒し返しや威圧的な連絡によって事態を悪化させず、必要な手続につなげてください。

まとめ|安全・証拠・目的と期限を確認する

ネットの名誉毀損・侮辱で刑事対応を考えるときは、安全を確保し、投稿と被害の経緯を残すことが出発点です。警察相談・被害届・告訴の違いを踏まえ、処罰を求める場合は告訴期間や提出方法を早めに確認します。

削除、投稿者の特定、損害賠償は、刑事手続とは別の対応が必要になることがあります。すべてを一度に決める必要はありませんが、記録や期限を失わないよう、自分の目的に合う手段を選んでいきましょう。

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いまの自分の状況に合わせて、整理する段階を選ぶことができます。